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ことばの貯蔵庫

白孔雀

 

中庭には5羽の白孔雀が居た。雄が2羽に雌が3羽。

真っ白な羽毛に覆われた雄の白孔雀は、後ろに伸ばした長い飾り羽を歩く度に優しく揺らし、求婚の際にはその羽を扇のように拡げ、雌を誘うのであった。拡げられた飾り羽は、緑溢れる庭を真白く覆い尽くした。一瞬にして雪が降り積もったかのように。

 

彼女はその島のたったひとりの主だった。17世紀から彼女の一家が所有しているその島を、一家の唯一の末裔となった今、ひとりきりで管理している。海岸線を沿うように作られたバロック様式の屋敷と中庭、そして小さな聖堂。

 

その島にやってくるのは、3日に1度水上ボートで食料と生活物資を届けにくる港の商店の女主人と、庭師、そして彼女の運転する船で偶にやってくる幾人かの友人達ー決してジーンズもスニーカーも履かないが、気さくで感じのいい人々ーくらいだった。

 

彼女は毎日、手際よく調理された質素だがバランス良く味の整った3食の食事を作って食べ、部屋を掃除し庭の花で飾り付けると、その残りの時間のほとんどを、読書に費やした。ある時は本棚に囲まれた書斎で、ある時は庭を一望できる窓辺で、またある時は砂浜で。先祖代々が集めた蔵書は膨大なもので、これだけの時間を読書に費やしても、読むものがなくなる心配はなかった。

 

 

 

 

満たされた人間の作った芸術作品に、何の意味があるのだろうか。

近代以降の芸術。古典主義からロマン主義へと移行し、規範に沿った作品を大量生産する時代から、個が、芸術家個人の感情が、魂が重視されていく。

そして20世紀。神が死んだ世界で芸術は宗教へと成り代わり、芸術家は聖職者へと成り代わる。彼らは崇拝の対象となり、芸術という神の元に殉教されることを期待される。そう、ゴッホも、芥川も。

 

満たされた私にはもはや書くものなどなかった。それ以前に、芸術というものを以前ほど渇望することもなく、精神的富裕層の遊びであるかのように、ただ嗜む程度になっていた。幸福という器が満たされると、創作欲求や表現欲求といった器は、みるみるうちに枯渇していった。

 

私を幸福にした張本人としては、それは不本意だったのだろう。不幸であるから故に手に入れた芸術とその雰囲気は、あろうかとか彼女を満たせば満たすほど失われていった。気付けば彼女は文章を書くのをやめ、哲学的な命題について議論したがらなくなった。きっと本を読むのもやめてしまったのだろう。